ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


そして長く続いた破壊音。


麻酔をしても櫂様の抵抗が強いことを物語る。


そしてその音も次第に無くなっていた頃、櫂様の部屋から、玲様が出て来た。


「……ふぅっ、ようやく眠ったよ。

櫂の部屋、半壊状態だ。目が覚めたら驚くぞ、しかも体も痣だらけだろうし。

麻酔した奴相手に、僕もかなり本気でねじ伏せたからな。

道化師の打撲痕に掌打して、ようやく…大人しくなった」


そう苦笑する玲様は、酷く疲れきった顔をしている。


時刻は朝の7時を過ぎていた。



「芹霞さんの身に、

何かあったのでしょうか」



思わず。ただぼそりと呟いただけなのに。



「あるわけないだろッ!!!」



突然玲様が怒鳴った。

それは激しく取り乱された櫂様のように。


「緋狭さんが――紅皇が…

"大丈夫"と言ったんだ。煌も向かっている。それなのに、芹霞の身に何かあるなんて、ありえるわけないだろッ!!

櫂が……僕がここに居て、芹霞に何かあるなんて、そんなの絶対許さないッ!!」



悲痛さに翳った端麗な顔は。

切実なる芹霞さんの想いを迸(ほとばし)るばかりで。


隠し切れない程、玲様もまた不安を抱いるのか。

そこまでの痛ましい心情を思って、私は黙り込む。



「……悪い、桜。八つ当たりだ」



もう殆ど泣いているかのような…潤んだ鳶色の瞳。

いつもの微笑が…崩れていることすら気づいていないだろう。


ああ、それ程…玲様も心配でたまらないのだ。

それを…自制心で押し止めているだけで。


「いいんです、玲様。玲様は日頃から、ご自分を抑えすぎです」


「ははは。昔に比べたら、僕だって結構言いたい放題言ってるよ?」



「……芹霞さんのおかげ、ですか?」



玲様は軽く唇を噛んで、笑顔を消した。


そこから見えてくるのは――


「まさか、自爆するなんてね」


玲様の心。


玲様が隠してきた…真なる情。

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