ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「何でこの時、こんなタイミング……。
……今までずっと隠せていたのにさ」
それは…苦しげで切なげなもの。
玲様の顔に浮かぶのは…"男"の色。
知らなかった、とは言い切れない。
何処かで気づいていたはずだ。
芹霞さんを見守るような優しい目は、櫂様に向ける目とは微妙に違うことを。
芹霞さんが絡む時、玲様はいつも以上に櫂様に意地悪になることも。
玲様は…密やかに、芹霞さんを愛されてきたのだ。
誰にも言わず、誰にも言えず、ただひっそりと。
「馬鹿だと思うだろ?」
玲様は哀しげに微笑んだ。
「よりによって、櫂の、だよ?
僕は櫂が変貌した原因を誰よりもよく知っているのに。
その僕が…櫂の想い人を好きになってたなんて」
最悪だ、と玲様は声を震わせた。
「……いつからですか?」
いつから私は気づけなかったのか。
「……煌よりも……早く」
鳶色の瞳は静かに伏せられる。
さらり、と玲様の髪がその頬に落ち、翳った端麗な顔を隠した。
ああ。
一昨日私が、腑抜けたあの馬鹿蜜柑に一喝したいと申し出た時、渋る様子見せたのは、
「僕は…煌の気持ちがよく判るから」
玲様は天井を仰ぎ見た。
「それでも…煌はまだいいよ。
幼馴染だからね。
幼馴染は――…
恋愛よりも深く…愛して貰える」
消え入りそうな…細い声だった。