ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
トントントンッ
包丁片手に材料を切っていく。
トントントンッ
陽斗は腕を組んで、みじん切りにされていく材料達を眺めている。
「何だかさ、見られているとやり辛いんだけど」
あたしは動きを止め、陽斗を見遣る。
すると陽斗は片手を出した。
「?」
握手かと思って片手を握ると、
「違うッ!! 俺にやらせろってことだッ!! 危なっかしいというか、まどろっこしいというか、見ていられん」
真っ赤になって怒鳴る陽斗に、あたしはむっとする。
「料理初心者に出来るものなら、やってみなさいよ。早く細かく正確に切ってみれば?」
親が死んで8年間。
玲くんに鍛えられて幾年月。
料理担当のあたしの矜持は、酷く深く傷つけられた。
あたしは頬を膨らませながら、包丁を手渡した。
陽斗は、物珍しいように包丁をじっくり観察した後、あたしの見様見真似で…材料を切り始めた。
トトトトトト…。
「うまッ」
軽やかな包丁捌きで。
早い。
細かい。
正確。
否のつけようがない、出来具合。
あたしは意地になり、千切り、半月切り、銀杏切り、乱切りだけではなく、玲くんに習った、究極の包丁奥義"桂剥き"まで披露して、陽斗に対抗したのだけれど…
半分しかまだ成功出来ないあたしとは段違いの出来で、陽斗は実にすいすいと、余裕で見事な薔薇の花まで作ってしまった。
陽斗と刃物は相性がいいらしい。
玲くん並の器用さだ。
陽斗は、あたしがやるもの全てに興味津々らしく、ハンバーグを捏ねるのも焼くのも、お米をとぐのも…全てに手を出してくるから、任せてみれば…あたしより上手いというオチつきで。
どっぷりと…自信なくしたあたしとは対照的に、陽斗はやけにご機嫌だった。
厨房の横に木製のダイニングテーブルに、出来上がった料理を並べる。
あたしは指示しただけだから、あたしの手作りというものではないけれど、
「いただきます」
口に入れたハンバーグは上出来だった。