ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「何?」

「服」

「何故に服?」


「これを使うのは気に食わねえが、"そのまま"だと俺が気になる」

「?」


玲くんと櫂の家に戻った時、既に服はぼろぼろだったので、桜ちゃんの黒いミニスカートと、櫂のTシャツを拝借していた。


いつもあたしが借りるTシャツが櫂の持ち物なのは、櫂のものではないと、何故だか櫂がかなり不機嫌になるからだ。


さすがにGパンは、櫂の物だったら裾丈が合わない。

櫂…を含め、あたしの周囲の男達は、裾上げというものをしたことがないから、桜ちゃんのスカートを借りることに関しては、何も言わない。


「そんなに変?」

「……。とりあえず、シャワーにでも入って着替えろ。少しはマシになるから」


軽くショックだった。


柄がお気に入りの櫂のシャツと、フリルの可愛い桜ちゃんのスカートだったのに。


陽斗は青い紙袋をあたしに押しつけた。


仕方が無い。

あたしはシャワーを浴びさせて貰って、陽斗の服に着替えた。


「………」


袋には『ARES=IOA』。

いつぞや青い男から貰ったあのブランドだ。


流行っているんだろうか。


半袖の、淡い青色のニットのワンピース。

首元はハイネックだった。


お姉様、といった感じだ。


何と下着まである。

しかもサイズもぴったり…けれど青色。


陽斗まで青色が好きなんだろうか。


厨房はもう人影はなく、きっちり片付いていたので、陽斗の部屋と思われる最初に居た部屋に戻れば…陽斗は居なかった。


暫く部屋で待っていたが帰ってこない。

しんと静まり返った無機質な部屋は、あまりに簡素すぎて、退屈で。


30 分経っても、帰ってくる気配がないから、あたしはこの施設を探検することにした。

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