ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



8年も経過しているというが、それ程荒れ果てた様子もない。


石灰の剥き出しの最低限の内装が、年月を感じさせないのかもしれない。


トイレとシャワー室、厨房の位置は判る。


しかし似たようなドアが建ち並ぶ施設だ。

まるで病院のよう。


どれも鍵がかかっていて、部屋の中は判らない。


とりあえず迷って帰れなさそうだから、陽斗の部屋には、洋服を包んでいた赤いリボンを結んで置いた。


「見取り図がある…。

へえ…地上ではなく、地下にある施設なんだ…」


何とも普通じゃなく、隠匿されているような建物だ。


地下3階建の内、このフロアは地下2階らしい。


この階には部屋が6つ、厨房、食堂、トイレとシャワー室しかないようだ。


階段の位置を地図で確認し、まず下の階に行ってみると、崩れた瓦礫の山に行く手を遮られ、歩くことは不可能だった。


凄まじい破壊模様。

土台がこんなに崩れているのに、よくこの建物は底が抜けないものだ。


今度は階段を2つ分上がり、地下1階に赴く。


すると、地下1階も同様な有様だった。


つまり、自由に歩けるのは、陽斗の部屋や厨房のある、地下2階のみということになる。


「陽斗……どうやって外から出入りしてたんだろう?」


もしかして、抜け道というものがあるのだろうか。


「………」


陽斗が居ない今なら、

抜け道を探すことが出来るかもしれない。





もし見つけられたら……。







あたしは溜息をついた。


やめよう。


あたしは無理矢理拉致されたわけじゃない。



陽斗は悪者ではない。


……本人は否定しているけれど。

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