ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「悪かったね、櫂。無理矢理眠らせて」
そう笑う玲の顔は、やはり俺より余裕には見えるけれど。
だけど俺は気づいたんだ。
憔悴しきっている玲の顔。
それは先の闘いで発作を起こして倒れたからとだけでは言い難い、明らかに過重の疲労が色濃く出ている。
元々色素の薄い玲の白肌は、今では一層…不健康な青みがかり、目の下の黒いクマが痛々しいほどだ。
玲は、連日平気で徹夜をする男だ。
涼しい顔には一切疲労の色を見せず、いつも余裕綽々と笑顔を向けてくる。
だが俺の前にいる今の玲は。
それを隠しきれていないことさえ、気づいていない。
普通なら休めとか労(ねぎら)いの言葉をかけるだろう。
だが俺は言わない。
玲がそう俺に見せたいのなら、
俺はあえて黙ってそれに従う。
それは主従を超えた信頼関係。