ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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玲の携帯のバイブが鳴った。


俺はびくっとして、電話に応答した玲を見つめたが、玲は"そうか"の一声で電話を切った。


じっと見ていた俺に、玲は苦く笑いながら、静かに横に振る。


「芹霞のことじゃないよ」

「そうか……」


想定内だったとはいえ、落胆した心持ちとなる。


煌から…まだ連絡がこない。


考えてみれば、あいつには携帯など機械を介した連絡手段を持ちえない。


だとすれば、煌が芹霞を此処に連れ戻した姿を見るまでは、心落ち着かないことになる。


なんていう歯痒い、拷問のような時間。


自然と漏れ出る大きな嘆息。


ソファにどっかりと座った俺は、玲から差し出されたアイス珈琲を口に含むと、目頭を指の腹で押さえた。


まだ玲に打たれた麻酔が切れていないのか、身体を襲う倦怠感が強い。



「……桜は?」


視界に黒色がないことに今更ながら気づく。


すると玲はにっこりと微笑んだ。



「イケMENS探索」

「……は?」



玲は斜め向かいのソファに座りながら、芹霞のピンク色の携帯を開いて俺に向けた。


画面には、例の…気に食わないゲームが表示されている。


俺は訝しげな顔を向けた。



「櫂。これはただのゲームじゃない。

……呪詛だ」



玲は表情を変えずに言った。


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