ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「呪詛?」
このゲームは、少女達の間に爆発的に流行しているものだと、芹霞は言っていた。
呪詛など呪術的な類からは、縁遠い存在のように思えるのだけれど。
第一俺だってそのゲームに触れている。
最初と設定部分では在ったものの、その時特別な嫌な感じは受けなかった。
そんな俺に玲は断言する。
「このゲームの愛好少女達が、
血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に変貌する」
「何だって!?」
そして玲は、俺が倒れている間に体験した、芹霞の友人宅でのことを話し始めた。
「弥生ちゃんは、僕が倒れた時に、既に芹霞が救急車を呼んで病院に搬送されていた。
桜を行かせて、そこから…紫堂系列の、東池袋総合病院に移送させたんだ。出張中の父親は姿ないとしても、駆け付けた夜勤中の看護師の母親はかなり取り乱して付き添っていたみたいだけれど、弥生ちゃん自身は、怪我もなく元気だったみたいだ。
家の修繕を紫堂が受け持つ代わりに、彼女に協力を要請した。
弥生ちゃんの持つゲームデータと、お前が嗅ぎ得なかったという香水。紫堂の研究所に送って至急検証させたんだ」
俺は腕を組んで、その続きを促した。
「……先刻の電話はその一部回答だ。
予想通り。紫堂の研究所でも血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)化の兆候がみられたそうだ。ある一定の条件下で」
思わず目を細める。
「…ゲームの方だけれど。弥生ちゃんの家で、ゲームを管理しているメインサーバに無理矢理侵入して歪みを作った際、零れたプログラムの欠片を採取したのを解析してみたんだ。
ほんの一部だから全貌の解明とまではいかないけれど、0と1のコードには、プログラムと同時に延々と1つの言葉が織り交ぜられている。
8年前の懐かしき…呪われし凶言(まがごと)だ。
『そは永久に横たわる死者にあらねど、測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるものなり』」
「黒の書……
死霊秘法(ネクロノミコン)、の一節か」
俺の言葉に、玲は静かに頷いた。