ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「恐らくメインサーバ自体に、凶言に効力を持たせる仕掛けが施されているんだろう。相手は素人ではないね。僕が容易く入れないんだから」
電脳世界において、0と1で成り立つプログラムコードを、人間界の言葉のように変換し、自在に操ることが出来る玲。
その玲が困ったように言い切るほどなのだから、余程のものなんだろうが、俺には玲を辟易させる相手が居るという方が、驚きだった。
「折角進入できる歪みを創ったのに、今度はサーバを守る防衛(ガーディアン)プログラムに阻まれてる。
7桁以上の乱数で目まぐるしくパスワードを変えるんだ。僕のメインコンピュータが今、乱数パターンを解析して進入を試みているけど、中々に簡単にいかないね。
時間をかけ過ぎると、向こうのプログラムは増殖し、僕のPCの破壊にかかる。それを防ぐ為には、1つ1つ丁寧に向こうの乱数コードを解析しないといけない。パターンさえみつけられれば、先回りも出来るんだけれど…かなり厄介な解析だよ。これなら内閣の機密情報室のサーバに潜り込む方が余程楽だ」
玲は頭を掻いて苦笑する。
「防衛しながら、侵入者には攻撃をする。まるでお前が作った、この家の結界みたいだな」
それは何気ない言葉だったのだけれど。
「………」
俺の言葉に、玲は考え込む姿勢を見せたんだ。
「玲?」
「ん……いやね、そういえば確かに向こうの手法は、僕が作るものとよく似ているなってね。……待てよ、だとしたら……」
何かが閃いたのか。
玲は急に立ち上がって、忙しく自室に赴いてしまった。
「難解プログラムに、黒の書の断片が組み込まれている、か」
残された俺は、1人呟く。