ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
電脳世界を利用するとは、何とも斬新で巧妙。
黒の書がどの程度向こう側のメインサーバ……プログラムに浸透しているかは判らない。
だが玲が辟易するプログラムに、あの凶言が効力を持って反響されるとなると、そのプログラムの大きさに比例して、凶言もその有効範囲を広げるのではないか。
俺は玲のように電脳世界に精通はしていないけれど、一般常識的に考えて見ても、電脳世界の蔓延速度は著しく、情報伝達は刹那に行われることは判るつもりだ。
ならば。
電脳世界に伸びる無数の触手は、いばらのような攻撃性を秘めながら、標的(ターゲット)を捕らえることも容易いのではないか。
「一体…何が起きているんだ?」
そう…呟かずにはいられない。
"意図"が見えぬ現状は、黒の書同等に不可解にしか思えなかった。
「黒の書……」
不意に、緋狭さんの言葉が蘇る。
――黒の書なくとも既に血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は出現しているのだ。
血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は8年前の"生ける屍"だと、その前提で緋狭さんは言っていたのは間違いない。
黒の書に関係する怪しげなものは、8年前全て緋狭さんが滅ぼしたという。
それが今、ゲームという媒体を変えて、その姿を露にしてきたのだとしたら。
8年前の"生ける屍"を、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)として蘇らせた、黒の書の知識の出所は何処だ?
偶然ではないはずだ。
――元老院の黒の書、何処にあると思う?
脳裏に響くは氷皇の声。
まさか。
「黒の書の内容を知りえてるのか?
――氷皇は」
最強と名高い緋狭さんと、唯一互角に戦うことが出来るという氷皇。
彼は、凶々しい知識を受け継いでいるのか?