ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「まあ…氷皇は、無関係ではないだろうけど…」
気がつけば、いつの間にか玲が戻ってきていた。
聡い玲は、俺の考えていたことを悟ったのだろう。
「だけど氷皇は黒の書の全知識はないと思う。
判っているなら、緋狭さんは…紅皇は氷皇を野放しにはしないよ。8年前に容赦なく叩き潰すさ」
――違う、違う。その件はノータッチ。
「今は退役しているとはいえ、彼女とて氷皇と同じ…僕達が畏怖すべき五皇が1人。しかも8年前は主席の"最強"と恐れられた人だ。
互角と言われる程強い氷皇が相手としても、緋狭さんは…判っていて黙っていられる人じゃない」
「……彼女が知り得ないはずはない、か」
だとしたら、更に腑に落ちない。
彼女が見落とすなどありえるのか?
どう考えてもありえない。
――坊。推測と事実の境界を見定めよ。
もし――
――8年前と現在のERRORを看破せよ。
それが故意的であったら?
偶然ではなく、必然に。
――8年前、私が燃やしている。
彼女は、揶揄の言葉を口にしても、嘘だけは紡がない。
その彼女が…書物以外の何らかの方法で、黒の書の知識を現存できる術を、"わざと"見逃していたら。
――元老院も知っている。
何の為に?
8年前の休戦同盟。
元老院があの研究から手を引く条件で、緋狭さんは元老院を潰さなかったと言われている。
それが俺達に伝わっている事柄。
だがもしも。
その内容の真実が違っていたとしたら?
8年前の優位性は緋狭さんにあるのではなく、実際は元老院側にあるのだとしたら?
今も、尚――。
――不思議には思わんか。何故元老院が紫堂に命じたのが、忌まわしき黒の書ではなくその行方を知る小娘の回収なのか。