ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「そう、まるっきり。試しにそれ以前のネットの記録…キャッシュを追ってみたら、それにも書き込みはないんだ。
流行の香水を唯一扱う店だったはずなのに、その感想はおろか投稿者すらいないのはおかしいよ。この時代、ネット無くした口コミだけで、女子高生の間で流行するとは思えない。何処かにその痕跡は残るはずなのに。
無論、ホームページもないし、メールらしきものも始めから存在しない。
痕跡がない以上、幾ら僕でも…ネットの世界から探ることは困難だ」
「……その店、バックに何かついているな」
「僕もそう思う。引き際が見事だ。ビルオーナーを桜は追ったみたいだけれど、店とは関係ない老人だったらしい。任せているといった不動産屋に聞けば、期間限定ということで要求額の倍の金を積んだから、ロクに本人確認もしないまま貸していたらしい。"山田太郎"さんに」
「何処の…山田太郎なのか」
櫂は、薄く笑った。
「痕跡を残そうとしないのは…意図的なんだろう。ましてや…血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に関係あるものとなれば。
そしてその香水"アリス"なんだけれど。弥生ちゃんの家で香水嗅いでみたけど、僕にも匂いがしなかった。女性だけが反応出来る……フェロモンのような特殊なものが混入されているんだと思う」
「………」
「発動条件2つ目として、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)化出来るゲームプレイヤーは、あの匂いが嗅ぎえないといけない。だから、女性に限定される」
「匂いが関係あるのか?」
「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は無差別に襲いかかるように見えて、実際は獲物を判別している。その基準が、自分と同じ薔薇の匂い……あの香水の匂いだ。実際、香水をつけても飲んでもいない芹霞は、二度の場面で直接的な標的とはされていなかった。それが、狙われなかった理由だ」
櫂は黙り込んで、僕の顔だけをじっと見ている。