ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

「僕、緋狭さんに言われたことを思い出していたんだ。発作を起こした直接の契機。運動量は関係ないと彼女は言った。だとすれば、発作を起こす起因が、弥生ちゃんの家に居た時にあったはずだって」


ずっと思い返していた。

おかしいほど、力が抜けたあの瞬間。


「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に相対して力が少しずつ失われた。そしてごっそりと力を持って行かれた直前の光景は……血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)同士の……"共食い"だ。

それしか結論は出ない」


「共食い?」


「ああ。突然お互いを貪り食い始めたんだ」


「餌が目の前にいるのに?」


「……だから、それが"呪詛"なんじゃないかな」


櫂は目で、僕に続きを促した。


「お前が道化師にアバラをやられたのも、直前に見た血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)という存在が無関係ではないはずだ。

血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)自体にも凶々しい力がある。そしてその血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)同士が1つの空間で貪り合うということは」


そこで櫂は思い当たったようだ。




「……蠱毒(こどく)か」



 
そう。

古来からの呪術の基本。

猛毒放つ虫類を1つの甕に入れて放置し、共食いの果てに最後の一匹となったものが、呪いに凄まじい効果を見せるという。

黒の書の効力は"不死"だ。


だから黒の書の知識を単に組み込むだけでは、呪詛単体にはなりえない。


不死と蠱毒の融合。


それが血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の役目だとしたら、それを目の前にした僕の急激な体力低下も頷ける。


あの時早くそれに気づいて、何らかの解呪措置をとっていたら、僕は発作を起こさずに済んでいたのかもしれない。

< 317 / 974 >

この作品をシェア

pagetop