ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
その時櫂と目が合って。
「痛くさせてごめんね…櫂…」
冷静になれば、大事な幼馴染を攻撃するなんて許されることがない。
そう反省して、ぺこりと頭を下げた。
「ははは。たかが打撲に、玲が大げさすぎるだけさ」
玲くんの肩越しに見える櫂は、やはり超然とした笑みを浮かべていて。
痩せ我慢だろうが何だろうが、心配させまいと笑う櫂は優しい。
女には愛想がなく鉄面皮とか色々言われているけれど、こんなやりとりをあたしを追っかけ回した女達が知ったら、あたし…彼女達の嫉妬に生きてられないと思う。
それくらい、櫂は…他の女には冷たく、徹底拒絶しているんだ。
幼馴染でよかった。
さすがに、あんな態度とられたら…あたし人間として何処か失格しているのか、自己不信に陥りそうだ。
もしくは…ブチ切れるか。
例え交流がなかったとしてもね。
あたしだって、日常を平和に…にこにこ過ごしたいんだ。
「ふふふ、櫂は大丈夫だよ、芹霞。アバラは僕が戻したけど、その周りが"かなり"打撲してるだけ。"たかが打撲"に、昨日から熱を出してふらふらしてただけだ。ふふふふふ」
にっこり。
「なあ…櫂」
そして玲くんは、あたしから櫂に視線を戻して、すっと笑みを引かせた。
「幾らお前でも、慢心は禁物だぞ? 内臓や骨には影響ない程度とはいえ、これは最低限の中で最大限の苦痛を与える芸術的な傷跡だ。屈辱だろうが何だろうが、皹入る直前のアバラまで外されていたこと、忘れるなよ? また無理するのなら、打撲の処を打ち付けるからな。
……ふふふ、ちょっと泣いてみる? 芹霞の前でさ」
「……ちっ」
玲くんは、あたしにはとても優しいけれど…"S"を隠している。
その片鱗は、ちらちら見える。
黙っていればにこにこ微笑む夢の国の王子様だが、煌に言わせれば、玲くんの裏の顔は…こんな可愛らしいものではなく、かなり…相当えげつないものらしい。
あたしにはにこにこしているから、そんなあくどい玲くんは…想像出来ないや。
だけど思う。
もし笑顔の裏の真っ黒のお腹を曝け出して、本当に攻撃に転じれば、間違いなく誰よりも怖い相手だろうと。
従兄とはいえ、櫂に此処まではっきりいえる玲くんだ。
その気になれば、何でもしそうな気がする。
実際、何でも出来るし。