ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「煌。
本当に何もされて無い、
――……よ?」
……おい。
何だ、その長い間は。
「何だよ、芹霞。何かあったのか、なかったのか、どっちだよッ!!!?」
俺の声は枯れ、裏返っている。
「いや、ない。何もないッ!!」
俺から逃げるように身を捩じらせて、慌てて言い放つ芹霞。
その動きで……
見えちまったんだ。
「お前――
何だよその首筋ッッ!!!」
芹霞の見慣れねえ青いワンピース。
いくらハイネックとはいえ、俺と芹霞の身長差では、真上から見えちまう。
芹霞はきょとんとして俺を見上げていて。
だから俺は苛立って怒鳴ってしまった。
鷲掴んだ芹霞の襟を下にずらしながら。
「これ、キスマークじゃねえか!!!」
「!!!!」
自分の両頬に手を添え、口をねじ曲げたまま、芹霞は固まっている。
あれだ、
"ムンクの叫び"だ。