ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞が俺の袖を引いた。
「煌。手を離して」
懇願するような、縋りつくような黒い瞳。
何だよ、この空気。
無性に息苦しくなる。
俺は悪役なんかじゃないはずだ。
俺は芹霞を助けにきて。
芹霞を奪った奴を倒しに来て。
俺は――。
「芹霞、お前――
こいつに惚れたのか?」
思わず口から漏れた言葉。
「え?」
途端に芹霞はきょとんとした顔をした。
「惚れたから――
俺を邪魔者にするのか?」
脳裏に過ぎるのは…芹霞の言葉。
今更ながら…思い出したんだ。
――幼馴染は解消よ。
「俺はお前にとって幼馴染みでもなけりゃ、味方でもなく、ただお前を妨げる存在なのか?」
「煌?」
「そこまで俺が嫌なのかよ!!!
そこまで俺は必要ねえかよ!!?」
止まらねえ。
苦しくて、心が痛くて。
どうにかして貰いたくて…。
「煌!!!」
芹霞がそっと俺の頬に手で触れた。
ぞくりとする程甘美な痺れが背筋に走る。
芹霞が俺を見た。
真っ直ぐに、射貫くように俺を。
「あたしは今まで通り、煌の傍に居るよ?」
吸い込まれる、黒い瞳に。
「あたし達は、幼馴染みでしょう?」
その言葉に、俺の唇は戦慄(わなな)いた。