ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




「許して…くれるのか?」


「謝らないといけないのはあたしの方。あたしはあたしの我が儘で、一方的に煌を傷つけた。ごめんね」


芹霞は潤んだ目をして、そしてきごちないながらも…爽やかに笑った。


いつもみたいに、俺に…

笑ってくれたから――。


「………っ」


やべ。


涙腺が緩んでいる。

芹霞を無性に抱きしめたくなる。



「陽斗に……その道化師に、大切なことを気づかせて貰ったの。陽斗が居なければ、多分あたしは被害妄想に陥って、煌から離れていたと思う」


「こいつが……?」


俺は思わず道化師を見つめる。


未だ項垂れたままの顔は、

表情を伺うことは出来ないけれど。


「あたしと陽斗の間にあるのは、あたしの一方的な信頼感情よ。友達を願い出たら、即却下されてるし」


芹霞は苦笑した。


「本当にその…それだけで……最後までいかずに済んでたのか?」


執拗に問うのは許して欲しい。

俺だって不安なんだ。


「ああ」


顔を上げた道化師の表情。



酷く人間臭い――


辛さを抱える"男"の情。




「俺には手出しはできねえ。


……例え手を出したくても」


 


こいつ――


芹霞に惚れているのか。




だから納得したんだ。


ただ1人、意味が判っていない芹霞は、依然きょとんとしていたけれど。


道化師――陽斗から手を離すと、陽斗はそのまま下に崩れ落ち、床に片膝をついた姿勢で座りこんだ。


「陽斗、傷ッ!!」


芹霞もしゃがみこんで、俺が切りつけた腕に手をかけた。


「放っておけば、すぐ治る」


陽斗は芹霞の腕を払った。



「だけど血が流れてるよ?」


「俺は――制裁者(アリス)だ」



芹霞を無視した金色の瞳は、俺を見上げた。

訴えかけるような、強い意思の力を瞳に宿して。



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