ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
嫉妬でも悲しみでもなく。
俺自身が救われている気がしたんだ。
芹霞なら受け止めて貰えると、
受け入れて欲しいと、
切に願ってしまった。
不可解すぎる…共鳴だった。
「陽斗。行こう?
あたしと、あたしが大好きな人達の元へ」
「冗談じゃねえ」
陽斗の震える手が芹霞の背中に回った。
「玲くんのごはん、おいしいよ?」
「………」
何でそれに対しては無言なんだ、この男。
とりあえずは――
「帰ってもいいのか?」
一緒に、とは言いたくねえ。
俺はまだ芹霞のキスマークの恨みを忘れてねえ。
本当はこいつに訊きたいことは山にあるけれど。
今は…芹霞を安全な場所に戻したい。
「ああ。芹霞を連れて帰れ。
俺はここに残る」
陽斗は、芹霞を突き離して言った。
「一緒に行こうよ、陽斗」
芹霞は陽斗の腕を掴んで揺すぶった。
陽斗は頷かねえ。
「俺には俺の、矜持がある」
そして。
切なげに、愛しげに――
「悪かったな、芹霞」
芹霞の頬を撫でたんだ。
俺は目を細める。
陽斗の顔は決意に満ちていて。
その決意に妙に心が騒いだ。
「お前、何考えてる?」
陽斗はすくっと立ち上がって、俺を見遣る。
「確かに紫堂は憎いがよ、事情が変わってしまった。
一刻も早く芹霞を連れてここから去れ」
その顔は、いつもの…人を虚仮(こけ)にしたような道化師に戻っていて。
「"あいつ"が来る前に」
俺だけに聞こえる小声で、そう呟いたんだ。
そうだ。
こいつが芹霞を連れた理由。
櫂に痛手を負わせる為だけじゃねえはずだ。
他に理由があったはずで。
「早く、行けッ!!!」
俺は頷いて、芹霞の腕を掴んだ。
――その時。
「急いで一体何処へ行く、
……如月?」
開かれたままのドア。
壁に寄りかかるように立っていたのは――