ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「大体、桐夏の制服着てないもの、判るわけないじゃん」
自己弁護して笑ったあたしに――
「着ててもお前、名前すら覚えてねえだろ」
突っ込んだのはオレンジワンコ。
「名前なんてなくても、人間顔があれば…」
「顔があっても思い出せなかっただろうが」
………。
「あ、いつもの眼鏡かけてないから!!!」
「今気づいたのかよ」
………。
うるさいワンコだ。
ちょっと覚えているからって調子に乗って。
「ふんッッ!!!」
「~~ッッ!!! 何で足踏むよ、お前!!!」
「踏まれる方が悪いわ!!」
「余裕だな、神崎」
眼鏡のない先輩は、いつもと同じような冷ややかな声でも、雰囲気が少し違う。
いつもの憮然としたものではなく、やや高揚したような柔らかさがあるように思えるんだけれど…まあ、いつもの顔をそんなに細かく覚えているわけでもないし、気のせいかも知れない。
「何故ここにいるんですか?」
そう、まずそれから先にあたしは問うべきじゃないか。
此処に居るのはあまりにも異質過ぎる男だから。
「何故だろうな」
先輩は意味ありげな笑いを浮かべただけだった。
会いたくもないのに、おかしな処で会ってしまうものだと思ったけれど、櫂の御子神祭での活躍を奪ったのがこの男で、黒の書など言う怪しげなものを用いて、元老院だか言う人達を脅している不届き者だということを思い出した。