ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

あたしは先輩をキッと睨み付けた。


「櫂から御子神祭奪って、その上にあたしを奪って、先輩に何かメリットあるんですか?」


「そうか。僕が御子神祭の主事になったのも知っていたか。どうだ、感想は」


「陰険」


あたしはそう答えた。


「実力の差だ。以前言っただろう。

僕は当主の座につく、紫堂との形勢を逆転させると」


「ええ、覚えてますよ。そしてとんでもないこと言いましたよね、あたしを愛人にするとか」


痛いくらいの多くの眼差しに見つめられる中、先輩は本当に愉快そうに笑う。


「僕の名前も覚えられないのに、そんなことだけは記憶に残っているとはな」


「あたしどうでもいいことは忘れて、目茶苦茶ムカついたことだけは執拗に覚えているんです」


そんな皮肉も先輩にも通じていない。


「可愛いな、神崎は」


ごめんなさい。

やはりあなたの思考回路は理解出来ません。

思い切り鳥肌立ちました。



「御階堂サン。悪いが、契約は破棄だ」


陽斗が抑揚無い声を出した。


そんな陽斗に、先輩は笑ったんだ。

 
「何だ?ミイラ取りがミイラになったか?

僕の言った通り――

茶番を演じた道化師(ピエロ)は、お前だったのか?」


驚愕するでもなく、ただ見下したかのように。


そして――


「紫堂に"男"を奪われたお前に、女を満足に抱けないお前に…一体何が出来る?」


その侮蔑の眼差しと口調は、あまりに冷たいものだった。


目の前の陽斗の背中がびくりと震えた。

同時に隣の煌の身体もびくりと震えた。


男 2人は何かを感じ取ったようだが、あたしだけはよく判らない。


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