ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「氷皇!!!」
射竦められたあたしを後方に庇うように、陽斗があたしの前に立った。
「芹霞達を帰して欲しい。
――俺はどうなってもいいから」
相対する金色と青色。
やがて青が金を飲み込んだ。
「いつも言ってるよね。
人にものを頼む時はどうするんだっけ?」
現れる。
氷皇、瀬良蒼生の酷薄の表情が。
陽斗は一瞬だけあたしを見ると、
微かに下唇を噛んでまた蒼生に顔を戻す。
そして片膝をついて、頭を下げた。
「陽斗!?」
従順な下僕の姿勢――
陽斗にとっては屈辱なはずで。
驚愕なのか悲哀なのか。
判らず震えたあたしを背に、陽斗はそのままの姿勢で…あたしに低い声音を放ったんだ。
「俺のことは捨て置け。
こんなこと――
――…慣れてる」
慣れてる…?
この従属の姿勢が、慣れてるだって!!?
「随分と、他人行儀で…反抗的な物言いだね、陽ちゃん。らしくないよ? いつもの通り素直になりなよ、こんな風にさ」
そして蒼生は腕を組みながら足を高く上げると、
「くっ!!」
陽斗の頭を真上から踏みつぶしたんだ。
「な!!!!!」
陽斗の額は床に触れ、土下座の形になる。
「何するのよ、蒼生ッ!!!!」
無意識だった。
あまりの怒りに、あたしは蒼生の頬を拳で殴ってしまった。
正直、殴れるとは思わなかったけれど。
だけどそれさえも見越したかのように、蒼生は陽斗を踏みつけたまま、面白そうにあたしを見るだけで、身じろぎ一つしない。
余裕綽々。
その姿に益々腹が立ってくる。
再度手を上げようと動かした右手を、蒼生が掴んだ。
「女の子はおとなしくしてないと、だめだよ?」
ぞくり、と体が震えた。
笑みの中の藍色の瞳が――
あまりに非情すぎたから。
氷よりも冷えた…そんな色を宿していたから。
思わず、本能的に…1歩、退いてしまったんだ。