ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「氷皇。神崎を怖がらせるな」
蒼生の背後から、愉快そうに笑う先輩が現れた。
それはまるであたしを救いだそうとする騎士(ナイト)のように、善人ぶって振る舞ってはいるけれど、所詮…同じ穴の狢(ムジナ)。
「神崎。僕は今気分がいい。お前が僕と共に来るのなら、お前の頼みを何でも聞いてやってもいいぞ?」
結局は、力で人を屈服させる…あたしが1番嫌いなことしかしないんだ。
その時――
「おかしなこと言うんじゃねえ」
突如、橙色が空気を裂いた。
――早い。
時が秒を刻むより早かった気がする。
気づけば煌が、蒼生の背中に偃月刀を振り下ろしていた。
しかし――
「ワンちゃんに刃物は不要だよ?」
振り返りもせず、片肘で煌の腕を攻撃し、陽斗を踏み潰していない反対の足を後方に蹴り上げた。
煌の偃月刀は宙に舞い、壁に突き刺さる。
間髪入れず煌が片手から、玲くんと同じような"外気功"みたいなものを放ったが、蒼生が右手の指を鳴らすと同時、床のアスファルトがめくりあがり防護壁となってそれを防いだ。
がらがらと、木っ端微塵になったアスファルトが床に落ちる。
「あんまりじゃれついてくると、注意力散漫して、制御出来なくなってしまうよ、俺の足~。あはははは~」
沈む。
蒼生の足の下に居る、陽斗が床に沈んでいく。
池袋の血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)のように。
駄目だ。
このままだと、陽斗も煌も共倒れだ。
嫌だ。
このまま見ているだけなんて嫌だ。
無力だなんて絶対嫌だ。
あたしだって何か出来るはず。
何かあるはずなんだ!!!
「!!!!」
あたしは――
こちらを楽しそうにみつめている先輩に目を合わせた。