ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「何だ、神崎」
判っているのだろう。
判っているから、笑っていたのだろう。
恐らく、この状況は…"必然的"なもの。
だけど自惚れるな。
陥落したわけではない。
あたしは…深呼吸をして言った。
「先輩について行くわ。だけど、煌と陽斗と共にね。だから…これ以上、彼らを傷つけるのは許さない」
あたしは、あんたに利用される気はない。
利用するのはあたしの方。
――ねえ、櫂。
「彼らを助けて下さい」
また櫂に会えなくなっちゃったね。
あたしは――
先輩に深々と頭を下げた。
それくらい、あたしだって出来る。
大切な者達を守る為ならば。
あたしは、こんなことくらい平気だ。
先輩の高笑いが聞こえる。
蒼生が動いた音が聞こえる。
非難するような煌の声。
舌打ちする陽斗の音。
入り混ざって、ただ雑然としているけれど。
逃げてやる。
3人で逃げ切ってみせる。
例え今、どんなに羞恥に充ち満ちた心情を抱えようと。
これからどんなことが起きようと。
見てろ。
最後に笑うのはあたし達だ。
必ず突破口は開いてやる。
逃げ切ってやる。
あたしは――
ぎりりと歯軋りして、
「お願いします」
更に頭を深く垂れた。