ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 
――――――――――――――――――――――――――――……



「――…以上です」



私の報告が終わると、目の前に座っている櫂様は腕を組みながら目を瞑り、玲様は壁に凭れるように立ったまま、考え込んでいた。


玲様の部屋。


ドアを開ければ、常に何らかの人工的な光が点滅する、管制塔のような大きな機械が四方に広がっている。


居間並の広い空間で、どの位置からも確認出来るサブディスプレイが8台備え付けられ、中央の60インチの大きい画面には、0と1がランダムに延々と羅列されている。


玲様がメインコンピュータと言うこれら機械類は、世界のあらゆる機関に侵入できる優れもの。


機械(ハード)の性能以上に、玲様の構築したプログラムは最高レベルだ。



玲様は――

人間の言葉で、機械に命令を実行させられる。


無論、キーボードから叩き出す、普通のプログラムも構築は出来るが、それ以上の精緻なものを、思考だけで作り出すことが出来る。


現状存在しうる人工知能の比にもならない。


私は何度か玲様の手伝いをすることはあるが、玲様と同様なことをするのは到底無理な話。


普通にキーボードを介さないと、機械は私の命令を受け付けない。


否――

私が指示する命令言語は、一般向けの開発言語ではなく、玲様特有のものなので、私はただ玲様の言われるままのものを打込むしかない。



「………」


櫂様と玲様の沈黙は続く。



この部屋は冷房が効いているとはいえ、膨大な電力と熱量が渦巻いている。


そして波のように押し寄せる電磁波。


だから玲様はこの部屋に、女性である芹霞さんを呼んだことはない。


電磁波が女性の肉体へ与えるダメージは計り知れないから。


その配慮は、恐らく芹霞さんには伝わっていないだろう。


芹霞さんは、馬鹿蜜柑からこの部屋の説明を聞き、玲様を『電脳オタク』と呼称するが、私から言えば、そんな生温いものではない。
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