ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
この膨大な電磁波が外に漏れず、マンションという一般住宅内に収まっていられるのは、偏に玲様の力のおかげで、彼がこの電磁波を吸収して結界に変えている。
玲様は『コードを書き換える』という表現を使うけれど、電脳世界が判らない私は、呪術発動のための符或いは詠唱のようなものだと思っている。
紫堂は、武力的にも呪力的にも標的にされやすい。
玲様はこの家に電気の結界を施し、敵意を持つ外部の侵入を遮断している。
敵が物体であれば、稲妻のような電波が攻撃出来るのは判るが、呪力にも有効であるというロジックが、当初私は理解出来なかった。
玲様曰く、人間と機械は密接な関わり合いがあるらしい。
例えば人間の心理分野からの機械的にアプローチした認知学があるように、また機械の分野から人間にアプローチした人工知能学があるように、例え呪力という目に見えぬものであろうと、それが人間の何らかの感情に起因しているものなら、それをコード解析をして、無効化すると同時に故意に変えたコードを返せばいいそうだ。
いわゆる、"呪詛返し"というものらしい。
言うには易く、実行するには難しい。
それを平然とこなす玲様は、やはり優れたお方なのだ。
結界の強さは『コードの書き換え』速度に比例しているらしく、強い結界を施そうとすれば、玲様の力はより多く必要となる。
そこで玲様は、普段は結界に関しての『コード書き換え』を、自らが作ったメインコンピュータに代行させ、力の補助とさせている。
玲様が構築された、結界レベルは7段階。
通常はレベル3だが、昨日櫂様が倒れてからレベルは5に上がった。
これ以上のレベルは、メインコンピュータの許容量が不足するらしく、紫堂の人工衛星に頼るしかないそうだ。
そのエネルギー供給の媒介者たる玲様が、それを頼ることにより、今までのように無傷でいられるのかどうかは判らない。
未知なる領域なのだ。