ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
この声は――
『本当? 壊れてないの?』
芹霞さん…だ。
間違いなく、芹霞さんの声が聞こえる。
私が反応するよりも、2人の方が早く反応していた。
「芹霞!?」
櫂様が声を荒げて椅子から立ち上がった。
『あれ、櫂の声?』
『だから言っただろう、壊れてねえよ』
馬鹿蜜柑の声だ。
ああ、無事に芹霞さんを救出出来たのか。
「ああ…あいつ、覚えてた!!」
安堵する玲様も何か嬉しそうで。
「煌は携帯が繋がらないからね、緊急連絡用に携帯用の小型無線機を渡してたんだ。この部屋ではハンズフリー状態で通話が可能だよ」
『櫂、玲。芹霞は無事だ。心配すんな』
馬鹿蜜柑の腑抜けた笑い顔が目に浮かぶ。
『だがよ、諸事情でちょっと帰れなくなっちまった……って、芹霞、今話してるのは俺で、邪魔すんなってば』
「……諸事情?」
櫂様が警戒したような低い声を出した。
『あ、櫂。あたしは大丈夫だから。煌もいるし、ちゃんと陽斗と3人で帰るから』
ハルト?
ハルトって誰だろう。
「芹霞。陽斗って誰?」
同じ疑問を抱いたらしい玲様が、刺々しい…冷ややかな声を投げた。
『え? 道化師?』
「……事情を説明しろ」
櫂様など明らかに、不機嫌さ丸出しで。
「俺の居ない間に、何で名前など……!!!」
櫂様…。
芹霞さんが紡ぐ、男の名前に過敏になりすぎていませんか?