ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
『あ…悪い、足音するからひとまず切る』
そして部屋には静寂が戻った。
櫂様はスピーカーの方を向いたまま動かず、玲様は哀しげに目を伏せている。
「氷皇が出てくるとは」
私は思わず呟いた。
最悪だ。
あの男の強さは尋常ではない。
櫂様や玲様が組んでも勝てないかも知れない。
人智を超える強さだ。
出来る限り相対したくない。
「芹霞には、手出ししないさ」
ぼそりと玲様が言った。
「緋狭さんと賭けをしているのなら」
――私達は動かずして、駒を動かすことにした。
「つまり――今日限定か」
櫂様の抑揚ない低い声。
強く握りしめられた拳。
――御子神祭開催時、どちらの手に芹霞が残るか。
「御子神祭……
一体、何なんでしょうか」
どんな拘りがあるというのか。
「櫂、そういえば紫堂当主は、御子神祭の主事の件…なんだって?」
「……ああ。
奪い取れ、だとさ」
「は?」
玲様が素っ頓狂な声を出した。
「御階堂を潰せだと。明日開催のタイトなスケジュールで無茶言い出したんだ、あの糞親父」
「出来なかったらどうすんだ?」
「知らん。やれ、としか言われてない」
櫂様は本当に面白くなさそうだ。