ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
久々にこの家に来たけれど、あたしはやっぱりこの雰囲気は好きだ。
騒ぐ煌と桜ちゃんを、苦笑しながらも…櫂と玲くんが優しげに見つめている。
何より、櫂が落ち着ける場所があるのが嬉しい。
それが例え――
あたしの許でなくても。
8年前。
櫂は突然、
正反対な姿に不可解な自立を遂げてしまった。
――芹霞ちゃああん!!
時期は丁度、両親が死んだ時。
事故前後の記憶はないけれど、両親を失くした事故に、あたしも巻き込まれていたらしい。
それまで医療機関とは無縁な健康体優良児であったあたしが、人生初の病院のベッドで目覚めた時、いつもなら傍にいるはずの天使の櫂は居なかった。
退院間近な3ヵ月後、初めて櫂は病室に現れた。
あの絶望的な衝撃は、今でも忘れられない。
――芹霞。
呼び捨てにしたこの子は誰?
そこにはもう――
あたしが大事にしていた天使は居なかった。
本当に何一つ前触れはなかったんだ。
あたしだけを頼りきった、天使の微笑。
どんな些細なことでもすぐ泣く、女よりも意気地がない惰弱な姿。
雨に少し濡れただけで、すぐ高い熱を出す虚弱体質。
余りに悲惨過ぎる運動能力。
全ては、今では想像すら出来ぬ、完全に過去の幻影となってしまった。
短期間でここまで急激に、完璧に変貌できた事実は、もはや驚愕を通り越して圧巻だけど。
奇跡としか言いようがないけれど。
まるで魔法でもかけられたかのようだけど。
あたしの櫂は消えてしまった。
それが――現実だった。