ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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少し前のことを思い出す。


3人で逃げる為に。

その機会を窺う為に。


あたしが、先輩に頭を下げたあの時。


「お願いします」


初めて先輩に、"望んだ"あの時。


屈辱に忍んだ甲斐があってか…、あたし達3人は、機嫌が頗(すこぶ)るよろしくなった先輩によって、施設の外に連れられた。


潰された階段を持つこの施設に、自由に出入りできる人数が多いのは、


「エレベーター…」


その存在に思い至らなかったあたしは、文明の力というものを見損なっていたらしい。


蓋を開ければ、何とも拍子抜けする結果だった。


久々の外界では灼熱の太陽が出迎えた。


光に眩んだ視界に、無数の灰色の箱が飛び込んでくる。


何だ、あれ…。


次第に目が慣れるにつれ、あたしの顔はひきつったように思う。


夥(おびただ)しい数の箱は――墓碑。



此処は――

墓地、だ。



何と!!!

墓地の地下に施設はあったのか。


それさえも衝撃的だったのに、さらにその墓地の敷地内に斜め止めしていたのは、光景にあまりに似つかわしくない真っ青色の車。


艶かしい曲線美を描く、見るからに高級外車。


フロントに堂々掲げられているのは…輝かしき跳ね馬のエンブレム。


あたしでも知っている。

フェラーリだ。


赤と黄色くらいしか知らなかったあたしは、青色があったことに少し驚いたけれど…そんなレアな青色を所有しているのは多分、


「あはははは~。俺の車だよ~」


まあ…問うまでもないだろうけれど。


「あれはね、4人乗りの612スカリエッティの特注版で5人乗れるんだ~」


それからどうでもいい自慢話が始まったけれど、あたしは車好きでもないし、興味も湧かない。

大体、こんな処にこんな車で乗り付けようという心境自体、理解できない。

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