ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
一方芹霞は――。
「煌とあたしのぎゅうにケチつけないでよ。あたし達はね、親愛のぎゅうをしているの。いい!!? あたし達のぎゅうはね、~~ッッ!!! ~~~ッッッ!!!」
俺は溜息をつきながら、片手で芹霞の口を押さえた。
牛じゃねえんだ、ぎゅうぎゅう連呼するな。
俺もへこむし、あの会長も激高しているから。
「……ちッ」
御階堂の舌打ちが響く。
そしてつかつかとこちらに歩み寄って身を屈めると、座り込んでいる芹霞の腕を掴んで、自分の下に引き寄せようとする。
俺が居るのに。
「触れさせねえ」
俺は片手で芹霞を抱き直し、片手でパシンと御階堂の手を弾いて、下方から睨み付けてやった。
「俺を見くびるな。
お前なんかに渡さねえ」
すると御階堂は冷たく言った。
「それは僕の台詞だ。
今の僕は桐夏の僕とは違う。
紫堂の犬など、完全僕の手の内だ」
暗に氷皇の存在をちらつかせた。
「自分が出来ねえからと、他人に頼るか。
お前…男の矜持はどうした?」
嘲るように俺は言った。
「そんなもの――
とっくに捨てている」
相変わらず高飛車野郎。
それでも僅かに何かが崩れている。
そんな気がしたんだ。