ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
└王子様の憂鬱
櫂Side
*********
「芹霞!?」
目前で崩れ落ちる、嫋(たお)やかな身体。
肩まである黒髪が床に散る寸前、
誰よりも早く芹霞に伸びた俺の手は――玲に払われ、そして芹霞の身体は煌の腕に収まった。
俺ではない…男の中に。
判っているよ。
煌は…反射的に、人として当然な行動をしただけ。
煌は俺が信頼する幼馴染だ。
だけど――
「……玲」
煌に覚える不条理な嫉妬。
それと同時に――
満たされぬ…やり場のない怒りは、玲に向いた。
それを悟っているだろう鳶色の瞳は、
真っ正面から俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「櫂。芹霞は今…
闇に魅入られている」
乱れた精神を持つ俺とは対照的に、何処までも落ち着き払った声音の玲。
煌の腕から…規則正しい芹霞の寝息が聞こえる。
「立て続けに触れた闇が、彼女の許容を超えたようだ。彼女が無効化できない不安定な状況で、安易に闇を煽るべきじゃない」
両手で芹霞を抱きかかえた煌は、俺と玲を見比べ…どうすべきか当惑している。
「煌。大丈夫だから。
芹霞を部屋に寝かせてきて」
玲の指示に、煌は惑う。
「俺は別にいいけどよ。
櫂、お前が行きたいのなら…」
芹霞を俺に託そうとする煌に、玲が毅然と言い放つ。
「煌、櫂のことは気にするな。
早く芹霞を休ませてこい」
声色を変える玲に、煌は…
「…あ、ああ…。
じゃあ…寝かしてくるぞ、櫂…」
俺が納得していないということは、はっきりと顔に刻まれているのだろう。
煌は心底申し訳なさそうな顔をしながら、部屋から出て行く。
俺は見送る。
愛しい存在が、俺から遠ざかる…それを。
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「芹霞!?」
目前で崩れ落ちる、嫋(たお)やかな身体。
肩まである黒髪が床に散る寸前、
誰よりも早く芹霞に伸びた俺の手は――玲に払われ、そして芹霞の身体は煌の腕に収まった。
俺ではない…男の中に。
判っているよ。
煌は…反射的に、人として当然な行動をしただけ。
煌は俺が信頼する幼馴染だ。
だけど――
「……玲」
煌に覚える不条理な嫉妬。
それと同時に――
満たされぬ…やり場のない怒りは、玲に向いた。
それを悟っているだろう鳶色の瞳は、
真っ正面から俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「櫂。芹霞は今…
闇に魅入られている」
乱れた精神を持つ俺とは対照的に、何処までも落ち着き払った声音の玲。
煌の腕から…規則正しい芹霞の寝息が聞こえる。
「立て続けに触れた闇が、彼女の許容を超えたようだ。彼女が無効化できない不安定な状況で、安易に闇を煽るべきじゃない」
両手で芹霞を抱きかかえた煌は、俺と玲を見比べ…どうすべきか当惑している。
「煌。大丈夫だから。
芹霞を部屋に寝かせてきて」
玲の指示に、煌は惑う。
「俺は別にいいけどよ。
櫂、お前が行きたいのなら…」
芹霞を俺に託そうとする煌に、玲が毅然と言い放つ。
「煌、櫂のことは気にするな。
早く芹霞を休ませてこい」
声色を変える玲に、煌は…
「…あ、ああ…。
じゃあ…寝かしてくるぞ、櫂…」
俺が納得していないということは、はっきりと顔に刻まれているのだろう。
煌は心底申し訳なさそうな顔をしながら、部屋から出て行く。
俺は見送る。
愛しい存在が、俺から遠ざかる…それを。