ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞……。
生気輝く黒目がちの大きな目。
爽やかな笑顔を魅せ続ける俺の幼馴染。
彼女は誰に対しても媚びることなく、臆することなく。
真っ直ぐに裸の心を絡めとる。
――僕、芹霞ちゃんがだあい好き。
――あたしも、櫂がだあい好き。
12年前に、初めて出会ってから程なく。
芹霞に完全に絡めとられた俺は、その慈愛深い温もりだけでは満足できなくて、それ以上のものを芹霞から求めるようになった。
芹霞を見ていると、胸が切なく音をたてるようになってきて。
芹霞が離れる時は、無性に寂しくて悲しくて、涙が止まらなくて。
触れたくてたまらなくて。
俺だけを見て貰いたくて。
それをどう表現していいのか、
判らない程…烈しすぎる激情に俺はもがいた。
同じ激情を抱いて貰いたかった。
触れ合いたい。
他に目を向けないで欲しい。
激しい…渇望。
"男"の心の…目覚め。
守られてばかりの情けない幼馴染としてではなく、ただの1人の男として。
芹霞という女に、俺を切実に恋焦がれて貰いたかった。
芹霞を手に入れる為に俺は――
だから……
忌々しい自分を棄てたんだ。
そして自分を真逆に変えたのに、
俺と芹霞の現状だけは、何1つ変わらない。
忌々しい程に。
賞賛と畏怖の異名『気高き獅子』。
求める少女が何も関心を示さないのなら、
そんなもの意味のないもので。
12年間。
気の遠くなるほど長く――
陶然とする程甘やかで
呼吸が止まる程激痛の
そんないばらに絡め取られ、
俺は、昔も今も動けない。