ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
├お姫様と電脳オタク
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「いじりすぎた、アオ」
突然聞こえたのは――
耳慣れた艶やかな声。
こんな処でも…やはり乱れた襦袢姿で堂々と、一升瓶片手に艶かしく笑う…我が姉。
思い切り飲み干したその瓶を、遠くに放った。
「…………」
きゅるきゅる音を立てたその瓶は、なんとアスファルトの塊をぶち壊し、瞬く間に消えてしまった。
破壊音は暫し続き、やがて途切れた。
硝子がアスファルトの硬度に勝るなんて、聞いたことはないけれど。
何が起きても驚くものか。
この…非常識な緋狭姉に限っては。
「ごきげんよう、我が可愛い妹」
ほろ酔いなのか、緋狭姉の顔が上気している。
同じ血をひきながら、色気ないあたしとは違う。
艶やかに匂い立つ大輪の花。
……多少酒の香りも混ざっているけど。
「緋狭姉~~ッッ!!」
どんな姉でも、今は天の助けとしか思えない。
氷より凍てついた視線を送り付ける、危険極まりない櫂から逃れるには。
「会いたかったよ~~ッッ!!!」
ドサクサ紛れて、遠くに移動しろ。
あたしの防御本能がそう叫ぶ。
だから緋狭姉に、わざとらしい程の喜び見せて抱きつこうとする。
が――
「何処へ行く、芹霞?」
後方から襟首掴まれ、宙に泳ぐ。
「俺を置いて行くよ、寂しいじゃないか」
だくだく汗を掻きながら、ちらりと後方を振り向けば。
美しい幼馴染の輪郭に、
凍てついた不気味な笑みが貼り付いている。
そこから感情を窺うとすれば――。
怒り……に近いかも?