ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


 
煌はすぐ戻ってきた。


バツが悪いような表情を浮かべ、俺との距離をどの程度縮めていいのか、推し量っているようで。


煌が悪いわけじゃない。

それは判るから。


「いつも通り、近くに来いよ」


そう笑いかければ、煌はほっとしたような顔で飛んでくる。


パタパタ…。


尻尾が振られている様に見えたのは、幻覚だろう。



「……ねえ、煌。今日の女の子は?」


苦笑した玲が、煌に尋ねる。

いきなりだ。



「芹霞と一緒に見たという少女は、

やはり――

血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)?」



いきなり、核心。


そう、俺達には…考えねばならぬことがある。

芹霞の前では、口に出来ない問題がある。


「あ、ああ。こうも偶然が重なると故意的だ。玲の推測どおり、道化師野郎は血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の女を狩っている。どこで探し出してるのかは知らねえが」


煌はソファではなく、白いラグの上で胡坐をかいて座り、顔の表情を険しくさせた。


「ふう、昨夜に続いて今日。更に被害者の死体が消えるとなれば、こっちの予想以上に多く血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は居て、道化師は謙虚に狩り続けていたってことかな。

この"紫堂"に何も気づかれることなく」


毒を含ませた玲の言葉。


桜が唇を噛みながら、黒いクマの人形を抱きしめたのが視界に入る。


「なあ、本当に感染症とかじゃねえのかよ、玲。

昨日"アレ"を引っ掻いた、俺の爪の鑑識はどうだ?」


「櫂にも話したけど、鑑定不能らしい」


「……不能? 紫堂の研究所で?」


「残念ながら痕跡がないらしい。

ただ、」


――薔薇の花の成分が極微量に。


「薔薇?」


煌は素っ頓狂な声を上げた。

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