ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


――ひゅん。



突如走った何かが、あたしの頬の髪を掠めた。

はらはらと髪の束が舞い落ちる。



刹那。



痛い視線を感じて鳥肌がたつ。




突き刺すようなこの視線は――


――殺気!?



「!!?」




どくん、と心臓が震える。



――ひゅん。



櫂はあたしを抱いたまま、身を屈めると、頭上に飛んだ何かを手で掴んだ。


手術のメスのような銀色の鋭利な刃物。



「これは……」



見たことがある。



――ぎゃはははは。



初めて陽斗と出会った時、

陽斗が投げていたものではないだろうか。


櫂はそれに目を走らせた。



「薔薇の花の模様……ちっ」



――ひゅん。

――ひゅん。

――ひゅん。



刃物の動きが見えないあたしは、警戒に身を強張らせる暇なく、その僅かな油断を狙って、何かが飛んでくる。


――狙いは、あたし?


< 432 / 974 >

この作品をシェア

pagetop