ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――ひゅん。
突如走った何かが、あたしの頬の髪を掠めた。
はらはらと髪の束が舞い落ちる。
刹那。
痛い視線を感じて鳥肌がたつ。
突き刺すようなこの視線は――
――殺気!?
「!!?」
どくん、と心臓が震える。
――ひゅん。
櫂はあたしを抱いたまま、身を屈めると、頭上に飛んだ何かを手で掴んだ。
手術のメスのような銀色の鋭利な刃物。
「これは……」
見たことがある。
――ぎゃはははは。
初めて陽斗と出会った時、
陽斗が投げていたものではないだろうか。
櫂はそれに目を走らせた。
「薔薇の花の模様……ちっ」
――ひゅん。
――ひゅん。
――ひゅん。
刃物の動きが見えないあたしは、警戒に身を強張らせる暇なく、その僅かな油断を狙って、何かが飛んでくる。
――狙いは、あたし?