ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲は続けた。
「抗酸化物質に近いものらしい。
簡単に言えば酸化して腐らない…
"生きさせる"成分だ」
俺はそれを受けて、静かに笑った。
「"死んで"いるのに、
"生き"続ける……
何とも意味ありげじゃないか」
喉元で、くつくつと。
道化師が殺したものが生き返り、逆に襲う側になる。
恐らく――
今日煌と芹霞が目撃したものも、
俺が昨夜見たものと同じだったに違いない。
「訳わかんねえ。死んでるのに生きてる? 死体が消える? 何であの男は、ああも意味あり気で好戦的なんだ?
それに認めたかねえけど強い。それなのに今まで、俺の耳に入って来たことがねえ。櫂や玲はおろか、桜も知らねえんだろ?」
「ええ。裏世界(アングラ)でも、
ブラックリストに入ってませんでしたわ」
"道化師(ジョーカー)"
人を馬鹿にしたような……腹立たしい名前だ。
――ぎゃははははは。
妖しく金色に染まる白服の男。
突如姿を現した。
――芹霞を気に入ったらしく、
ますます、気に食わない。
俺の知らぬ処で、何が動いている?
「何者なんでしょうね。
しかも今日言ったという、」
――摂理に逆らう全てのERRORは、神の鉄槌が下される。
「何を意味しているのか。櫂様を挑発した言葉だったとしても、象徴的な言い回しは、何だかしっくりこない気がしますわ」
首を傾げて考え込む桜に、煌も同調する。
「あいつは血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)が豹変するのも知ってやがる。その上で意図的に狩っている。
しかも。紫堂の内情にも聡い。ああ、本当に訳わけんねえけど……やっぱり、何か見覚えあるんだ。あの白い長ラン」
煌は片頬を歪ませて舌打ちすると、橙色の頭をがしがしと掻き毟った。
「何処……だったっけなあ」
眉間に皺を寄せて腕を組み、
更に深く考え込み始めた。