ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
或る心象風景 Ⅴ
 




此の世に救いは無い――。





そう思って生きてきた。



もし人間というものが

もし生命というものが


少しでも貴いというのなら。

それが世の理というのなら。


信じさせるものが欲しい。

信じさせて欲しい。



此の世に救いが無い。



在るのは――

歪んだ紫と、歪んだ青と、歪んだ金の色。


混ざり混ざって闇の色になる。


闇は――

孤独(ひとり)だ。


寒い。

冷たい。


誰も居ない。



だから――


憎悪の炎で身体を温め、

闇に流離う仲間を捜すのだ。



ただひたすらに。



その為に耐えた体の苦痛。

その為に忍んだ男の矜持。



利用されていると判っていても、それでもその手を取らずには居られなかった。



何処までも虚無。

何処までも漆黒。



此の中で――

もし輝く色が混ざるなら。


もし艶やかな薔薇の花が咲くのなら。


きっと認めてしまうだろう。



――もう疲れた、と。





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