ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「今回は目を瞑ってやる。
だがこれだけは覚えておけ。
俺以外の奴に、お前の花は開かせない。
眠れるお前を目覚めさせるのは、俺だ」
はい?
櫂は艶然と笑うと、ベッドから降りた。
「とにかく今は…体を休ませろ。
今は…眠れ」
人をかき乱すだけかき乱しておいて、今更眠れなどとのたまう櫂。
「眠れないなら添い寝しようか?」
にやりと…櫂が笑うから。
!!!!
あたしが…渾身の力で櫂に投げつけた枕は、本当にへろへろで。
それが櫂にあたるはずもない。
櫂は面白そうに笑っていたけれど、やがてふっと真面目な顔をした。
「絶対に治してやるからな」
ああ――。
今更のように思う。
櫂はあたしを不安にさせまいとして。
そして尚且つ、あたしの声を取り戻そうとして。
こんなことをしたのではないだろうか。
些か理不尽で理解しがたい強硬手段だったけれど。
まだ声は取り戻せなかったけれど。
それでも倦怠感残るこの身体で動いたということは、深い眠りを誘うもので。
ほら……瞼が重い。
考えることは色々あるのに。
櫂、本当に――
パタン。
ドアが閉まる音がした。
もう少し違う方法なかったの?
何だか脳裏には櫂が焼きついて。
身体の火照りが消えなくて。
それでも…
櫂が間近に感じるのは嬉しくて。
櫂――。
向ける意識も段々と薄れ…
そしてあたしは、
意識を眠りに沈めた。
心地よく……。