ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲様は完全に我を失って、焦りを顔に色濃く出していた。
――何だって言うんだよ……元気だったじゃないか。僕が……制裁者(アリス)との闘いの間、何があったと言うんだよ!?
車の外側に転がる、血色に染まった塊。
それはかつて、"制裁者(アリス)"と言われる側の人間のものだったらしい。
御階堂宅で櫂様を急襲していた、白服の制裁者(アリス)の素早さに、正直目を瞠った私。
負傷している馬鹿蜜柑の思った以上の補佐(サポート)もあって、何とか短期間でその動きを抑え、櫂様が一撃で止めを刺した。
しかし、玲様程…無慈悲な止めではなかった。
芹霞さんの元に早く駆けつけたかっただろう櫂様にとって、だからこそ必要以上の追撃時間を省き、最小限で留めたのだろうけれど…それでもあの玲様が、此処まで徹底的に敵を打ちのめすとは思わなかった。
いつも儚げに微笑まれる玲様には、まるで似つかわしくない…そんな撃退方法。
それは拷問ともまた違う、まるで怨恨のような。
私達が居ない間、何があったというのだろうか。
私が、制裁者(アリス)という存在に対峙したのは、今回初めてのこと。
噂には聞く、純粋なる殺戮者。
現代の言葉で一番近しいのは…『殺し屋』、『殺戮集団』。
その雇い主は元老院だと聞いている。
つまりは表出せない部分を、制裁者(アリス)によって闇に葬っているのだと。
それがいつ紫堂に向けられても対処出来るように、紫堂の警護団が作られたと聞く。
制裁者(アリス)は8年前、
紅皇たる緋狭様が解体させた。
故に現存していない。
制裁者(アリス)だという道化師は出現したけれど、その特徴たる"赤い瞳"は見当たらない。
過去の亡霊たる制裁者(アリス)が、櫂様を……紫堂を襲ったということは、何を意味するのだろう。
私はそれに…不安を覚えるんだ。