ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



車の中にあった…玲様の月長石(ムーンストーン)。


マンションで、玲様が何度か石を磨いているのを見かけていたから、初めて相対するものではない。


透けそうで、透けていない…白い石。


それはまるで玲様のよう。


儚く脆く見えても…

それが全ての"もの"ではなく。


奥底にある"何か"までは、推し量れない。


玲様が持つのは――

そんな石。


その月長石は、あのマンションの結界のような力を放ち、その力によって芹霞さんは支えられていた。


慌てて私達は車に乗り込み、ハンドルを握った玲様は車を急発進させた。


病院などという、無防備な空間に連れるわけもいかず、玲様はそのままマンションに車を付けた。


マンションには――

既に道化師と、見取らぬ少女が、隣り合う2つの客間にそれぞれ寝かされていた。


馬鹿蜜柑と玲様の説明を聞く限りにおいては、少女は遠坂由香由香という名前の、『B・R』ゲーム構築者だという。


道化師…。


私が御階堂宅にある、3つの離れのうちの1つで見つけた道化師は、元の造りが判らぬくらい顔が腫れ上がり、四肢の骨は外され、惨い有様だった。


正直私は道化師の姿を見たことがなかったから、金色の髪と白い服とで本人だと判断する外なかったのだけれど。


かろうじてでも、息がある方が不思議なくらいで。

途切れそうな細い息でも、回数が重なるにつれて…顔の切り傷が薄くなっていくのは、驚愕に値するものだった。


馬鹿蜜柑と同じ回復力。


否――

それ以上の再生速度。


オリジナル、か。


道化師を抱えた途中、やはり少女を抱えた緋狭様と出会い、


――それも寄越せ。


緋狭様は、2つ分の体を肩に担いで消え去った。


そんな道化師と少女がこのマンションに居るということは、緋狭様は此処に立ち寄ったのだろう。


普通に考えても、結界が張り巡らされたこのマンションに自由に出入りできるのは、彼女しかありえないから。


2人の回復を…玲様の結界に委ねたのだろう。




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