ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲様の回復術が、誰よりも勝っているのは、人体を深く理解されているからだと私は思っている。
聡明な玲様は、既に米国の超難関有名大学を飛び級で卒業されている。
実は、櫂様も…玲様と時期こそ違うが同じく。
しかし櫂様は、芹霞さんと同じ高校行きたさに、それを黙って普通の高校生をしている。
紫堂の次期当主ともなれば刺客は多い。
櫂様が負傷した時は、ご自分自身が診られたいと…既に医師免許まで取得し、芹霞さんの友人である宮原弥生が、入院している東池袋総合病院所属の医師として、密やかに名を連ねている。
そう、医師故に…体に対する理解力は、強力な回復術として発揮されているのだと思うのだ。
玲様が医師という肩書きに拘られたのは、"建前"だけのこと。
医師免許がなければ、出来ぬ設備や薬品の調達が、必要だったからのこと。
例え紫堂系列とはいえ、結界の届かぬ病院に櫂様を託すことが出来ないと、玲様は…応急処置くらいはマンションの中で出来るよう、必要最低限度の医療設備は整えたいと思われたのだ。
放って置けば傷が回復出来るのは、馬鹿げた犬だけだ。
人間であれば、結界よりも手当に緊急を要することがある。
非現実的な回復結界と、現実的な回復施術。
どちらも可能に出来るのは、優れた玲様だからこそ。
それが、結界で覆われたマンションに、麻酔や点滴がある理由。
――玲くん、お医者さんみたい~。
――お前、変な趣味でもあんのか?
この事実は…芹霞さんと馬鹿蜜柑だけが知らない。
「櫂、芹霞をそこに寝かせて!! 煌、洗面器に氷!! 桜、点滴の準備!! 手伝って!!!」
そこに雪崩れ込んだのは芹霞さんで。
それはある意味、玲様にとっては想定外。
芹霞さんをベッドに寝かせた玲様は、まずは解熱剤と栄養剤の入った点滴を施した。
1時間足らずで痙攣が落ち着き、点滴の必要もなくなったのは、偏に医療措置だけではなく結界の力も大きかったと思う。
そして皆が見守る中、症状を落ち着かせた芹霞さんが目を覚ました。
「「「「!!!!」」」」
皆の顔が思わず弛んだ瞬間だった。