ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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部屋に芹霞さんと櫂様を残した私達は、いつも通り、夕闇に覆われた居間にいる。


いつもなら玲様のにこやか微笑や、馬鹿蜜柑と私の罵り合いが始まるのだけれど、今…此の時は違った。


静かだった。



「「………」」



2人共――

黙り込んでいる。


言葉には出さないだけで、

その動きは奇妙な程に忙しい。


馬鹿蜜柑は、いつものように胡座を組んではいるが、俯いた頭は上がることなく、時折大きく溜息をついたり、橙色の髪を荒く掻き毟ったりを繰り返す。


そして時々、櫂様と芹霞さんの居るドアを目だけで睨み付け、壁の時計と見比べると、


「10分……

15分………

……まだ出てこねえ」


皿の数を数える、何処かの幽霊のように。


ぶつぶつ、ぶつぶつ煩い。


「見苦しいよ、煌」


玲様など、一見穏やかそうに笑い、からかうような飄々とした口調を投げているようにも思えるけれど。

その鳶色の瞳はかなり冷ややかなもので、何より…淹れたアイス珈琲を飲む頻度が尋常じゃない。


更にその色。


玲様は基本、砂糖なしのほんの少しのミルク入りを好むけれど、今の珈琲は真っ黒。


しかもいつも以上の深煎りブラックだ。


見るからに苦そうなその色を、

強張った顔で飲んでいる。


普通であればありえない。

 
 
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