ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
昔から…そうだ。
気づかぬのは芹霞だけ。
気づかないから、のびのびとして…要らぬ"魅力"を振り撒いて。
影でどんな俺と煌が暗躍しているのか、芹霞は気づきもしない。
――あたし…もてないもん。櫂と違って。
どれだけ、"虫"が多いか判っていない。
自覚して動いて欲しいが、自覚したらしたで厄介なことになりそうで、言うことが出来ない。
洒落っ気がないだけ、まだ救われている。
着飾れば、どれだけ規模の"虫"が湧いてくるのだろう。
考えるだけでも頭が痛くなる。
芹霞が美少女なのは、俺だけが気づいていればいい。
永遠に――。
「で、今日はどんな感じだったの、会長さん。勿論、櫂が居ないんだから…芹霞にちょっかいかけてきたんだろう?」
わざとらしく、俺をちらちら見ながら、薄い笑みを浮かべる玲。
玲は…芹霞が絡むといつも俺をからかってくる。
面白いらしい。
…俺が、妬きに妬く姿が。
「え? ああ、いつにまして、芹霞への絡み方が凄かったな。朝から何回俺、芹霞をあいつから引き剥がしに行ったことか。なんていうか……頭脳戦? 懲りずに、教師巻き込み大量の人員はたいて。最後はもう…強硬的」
俺のコメカミが、ぴくりと反応する。
「本当芹霞限定の変質者だな、あれ。
ちょっと俺が行くの遅ければ、絶対ヤられてたぞ」
ビシッ。
無意識に足を振り下ろしたらしい。
俺の前の分厚い硝子のテーブルの真ん中に、蜘蛛の巣模様のような皹が入っている。
「か、櫂。落ち着け、ヤられるっていっても、唇だ。キスだ、キス」
バリンッ。
気持ちいい音を立てて、硝子のテーブルは2つに割れた。
「ば、馬鹿蜜柑ッ! 口を閉じなさいっ」
桜が煌の口を押さえたけれど。
「……かは?」
「か、櫂様?」
「芹霞は? 抵抗…していたのか、ちゃんと」
「え? そういえば……あ……」
煌は嘘をつけない性質だ。
その煌が言い澱んでいるということは。
例えようのない、焦燥感がじりじりと胸を焦がした。