ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
├王子様と金色
櫂Site
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芹霞の声が治る術は、道化師が知っている。
それは、俺という存在の無力さを突き付けられ、正直悔しいばかりだったけれど、それでも今は…どんなことをしてでも、芹霞の声を取り戻したくて。
俺の矜持や感情よりも、最優先すべきは芹霞の声の回復だと、それは俺にも判るから。
俺は躊躇することなく、道化師の居る部屋に入り、背後のドアを乱暴に閉める。
その荒い音が、今の俺の気分だ。
濃い闇色に覆われた部屋に――
一筋の金色が差し込んでいた。
それは淡い月光にも思える、道化師の色。
ベッドの片隅で、立てた片膝に組んだ両腕を置き、更にその上に顎を乗せるような恰好で、道化師は…妖しいまでに鋭くぎらつく金色の瞳を俺に向けていた。
「やはり――目覚めていたか」
低い俺の声に反応しない金の瞳は、俺をただ見据えている。
その光は憎悪であり、警戒であり。
無感情であり、激情であり。
静謐であり、獰猛であり。
矛盾を秘めた、複雑な金の色。
俺達には一定の距離があるものの、これ以上間合いを詰めると、何かが決壊する緊迫感がある。
だがそれに――
誰が怖じ気づくか。
俺は揺るがない。
やがて、
「どうして、ここに連れた」
道化師は呟いた。
怒りを含ませて。
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芹霞の声が治る術は、道化師が知っている。
それは、俺という存在の無力さを突き付けられ、正直悔しいばかりだったけれど、それでも今は…どんなことをしてでも、芹霞の声を取り戻したくて。
俺の矜持や感情よりも、最優先すべきは芹霞の声の回復だと、それは俺にも判るから。
俺は躊躇することなく、道化師の居る部屋に入り、背後のドアを乱暴に閉める。
その荒い音が、今の俺の気分だ。
濃い闇色に覆われた部屋に――
一筋の金色が差し込んでいた。
それは淡い月光にも思える、道化師の色。
ベッドの片隅で、立てた片膝に組んだ両腕を置き、更にその上に顎を乗せるような恰好で、道化師は…妖しいまでに鋭くぎらつく金色の瞳を俺に向けていた。
「やはり――目覚めていたか」
低い俺の声に反応しない金の瞳は、俺をただ見据えている。
その光は憎悪であり、警戒であり。
無感情であり、激情であり。
静謐であり、獰猛であり。
矛盾を秘めた、複雑な金の色。
俺達には一定の距離があるものの、これ以上間合いを詰めると、何かが決壊する緊迫感がある。
だがそれに――
誰が怖じ気づくか。
俺は揺るがない。
やがて、
「どうして、ここに連れた」
道化師は呟いた。
怒りを含ませて。