ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

 
「無様にやられた俺を…

嘲笑(わら)いたかったのか」



手負いの獣が、威嚇するような激しい眼差し。


はっきりと向けられる憎悪を、俺は恐れることなく真っ向から受け取った。


――ぎゃははははは。


初めて会った時のような、まるで高見の見物をしているが如くの、人を馬鹿にした余裕さはまるで見られない。


言うなればそれは、俺と同じ立ち位置に居る……否、居ようとしている"人間の男"が持ち得るもので。


――ぎゃははははは。



ここまでの敵意を向けるのならば。


どうしてあの時、そうしなかったのか。

どうしてあの時、俺を殺そうとしなかったのか。


以前と今の差違が示すものは、一体何だというのか。



「――芹霞は、無事か」



無反応を貫いていた俺の身体が、

"芹霞"の名に必要以上に反応した。


向けられる敵意は依然変化はないけれど、その敵意の中に、その瞳の中に、その声音の中に…見え隠れするのは、揺れて定まらぬ…金の色。



「答えろ、紫堂櫂。


芹霞は此処に居るのか。

無事に連れ戻せたのか」



波のようだ。


憎悪という大波と、躊躇いがちな…懇願にも似た小波が、交互に俺に向かってくる。



ああ――

揺れて波打つ金色に、飲み込まれそうになる。


溢れんばかりの金の色。


触れれば更に、細波が見えてくる。


そんな金色に、俺が返すのは…

憐憫であり悲哀であり、怒りであり――後悔でもあり。



だが――。



――陽斗と一緒に還るから。



俺は認めない。


俺が介入しない、芹霞と誰かの"絆"など。


絶対に。



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