ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「気軽に、名を呼ぶな」
俺は冷たく言い放つ。
芹霞の首筋の赤い痕は――
……こいつだ。
思えばこそ、俺の体が冷えてきて…逆に揺らぎない"俺"が目覚める。
金色に呑み込まれない、確固たる存在の俺が。
「芹霞は俺のものだ」
道化師は何も言わない。
「どんなにお前が小賢しく動こうと、どんな牽制も意味をもたせない。許しはしない。
だが――
お前に聞きたい事がある」
俺は、金の瞳を見据えて言う。
「制裁者(アリス)が現れた。
お前とは違う、8年前の赤い瞳。
"真紅の邪眼"で」
「………」
「それとも違う強い瘴気に、それ以上の圧倒的な瘴気の痕跡を残して――芹霞の声は失われた。
傍に居た玲に悟られることなく」
はっきりと――
「!!?」
道化師は動揺したんだ。
顔を上げ、組んでいた腕を解き、驚愕に満ちた表情で俺を見た。
「会わせたのか?」
カーテンから漏れる月光。
道化師の青白い頬を、なぞるように象っていく。
「"あいつ"が来る前に、お前…
助け出せなかったのか?」
震えるような声。
「何の為に…俺が……」
血を吐くかと思うような辛そうな声。
「来るつもりだったのなら…
何で一刻も早く助けに来なかった、紫堂櫂ッッッ!!!」
道化師は…怒鳴った。
「お前が予定通り来てさえ居たら、お前の命で、芹霞の身は、御階堂や氷皇に保証されていたのに!!
どうして……
"あいつ"自ら動き出した!!?
どうしてあいつに芹霞を会わせてしまった!!?
そんな…予定じゃなかったのにッッ!!」
それはまるで悔いるかのような、激しい慟哭。