ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


やはり――

芹霞を連れたのは、俺をおびき出す餌だったのか。


そして芹霞が傷ついたのは…やはり…俺のせいか。


俺は…握り止めた拳に力を込める。



同時に…微妙にひっかかる言葉が頭に反響して。


"あいつ"。


それは御階堂でも氷皇でもないのだろう。


だとすれば、



――横槍が入った。



「"あいつ"とは――誰だ?」


緋狭さんは、それを示唆したのか?



緋狭さんが俺の暴走を止めていた時点では、芹霞の身の保証は完全になされていたのだろう。


――横槍が入った。


だが、不測の事態でも起こったのか。


それでも――


――御階堂分家に行く。乗れ。


緋狭さんにはまだ、俺達側に"優位性"があると踏んでいたはずだ。


だから御階堂分家に赴いたはずで。


――私が来ると見込んでの……牽制の牽制か。


氷皇との対戦時、緋狭さんは明らかに想定外というような口調だった。


――そこまで手を出していたのか、"あいつ"は。


緋狭さんの読みを上回った"あいつ"。

緋狭さんまでをも駆り出させた"あいつ"。

緋狭さんが、自らの口で語れない"あいつ"。



――坊。完膚無く、叩き潰せ。


それが、芹霞の声を奪った元凶か。



「言え。誰がバックに居る?」




だが、説明を求めたその先は、既にもう姿が無く。


「!!!」



早い!!!



そして気づいた時には、俺の顔に拳を繰り出していて――



バシッ。



それを、大きな橙色が弾いた。



同時に小さな黒色が、俺と金色の間に割り込めば、パチン、音がして部屋の明りがつけられた。



「怪我の具合はいいみたいだけど、ここが何処なのか、忘れて貰いたくはないね」


冷たい口調。

玲の声が背後から聞こえた。



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