ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
正直、俺は平和的協力は選択肢になかった。
道化師が、芹霞を治す情報を知り得ているのなら、力尽くでもそれを聞き出すまで。
むしろ、そうした一方的なものを覚悟していたんだ。。
道化師には、紫堂と組む利点はない。
ましてや、俺に憎悪抱えている相手を辛抱強く説き伏せるほど、悠長な時間もなかったから。
「ずっと……とまでは言わねえ。一時だけでいい。芹霞が治るまででいいからさ。
緋狭姉が言ってたろ、芹霞を助け出す方法はこいつに聞けって。
俺、何か嫌な予感するんだ。こんないがみ合いする間に、早く何とかしてえ」
その悲壮感漂う顔に、誰も何も返せない。
「皆芹霞を助けたいんだろ?
反目する意味、ねえじゃねえか。
そう思うの、俺だけ?」
やがて――。
「煌の案を飲むよ、僕」
大きな溜息をついて、玲が苦笑した。
「渋々だけど、ね。陽斗」
「……!!!! 名前で呼ぶなッ!!」
道化師……陽斗が、心底嫌そうな顔で拒んだ。
芹霞には…許している癖に。
だから余計苛ついて、俺は言った。
「今からお前は"陽斗"だ。
芹霞だけに特別許可させて溜まるか。
決定権は俺にある」
「……お前、何様だ!?」
陽斗が叫ぶ。
「櫂様ですわ、陽斗」
「………」
当然というような桜の返答に、面食らったように陽斗は押し黙った。
「ということだ。
仲良くやろうぜ、陽斗」
煌が陽気な声をかける。
「だから!!
俺の名前…「「「「陽斗」」」」
「………」
そして陽斗は、暫く忌々しげに俺達を睨み付けながら、
「……仕方がねえ。
…本当、仕方がねえ」
少しだけ。
ほんの少しだけだけど…
緩んだ顔をした――
気がした。