ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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不思議と静かな空気が漂っている。

日付が変わったようだ。


――芹霞が目覚めたら話す。

――お前らは少し寝て来い。酷え面だから。


ぎゃははははと笑う陽斗に、当初食ってかかっていた紫堂の面々も、"仮眠"という形で桜に押し切られ、その桜も、睡眠が必要ないという陽斗の"番"の強い願い出に、渋々譲歩したようだ。


"仮眠"だ"休憩"だの言われても、そんな気分じゃねえことは全員同じだろう。


芹霞の声を奪った原因が、玲を……ベンツに施したという玲の結界自体を、容易くすり抜ける相手だというのなら、ここは絶対に安全だとゆっくり出来る暇もねえ。


実際、櫂だって玲の部屋で何かしてるし、部屋に戻った桜だって寝てる気配もねえ。敵に備えて神経研ぎ澄ましている。


俺だって、


――明日までに治せ。


緋狭姉に無茶言われた腕、まだぶらりとしていて完全に治ったとは言い切れねえけど、寝て回復を待てる心境じゃねえし。


でもまあ、回復はしている。


数日前なら、桜と言い争って、玲に殴られて、櫂が微笑んで。

そこに芹霞も笑っていたりして。


穏やかな日常がまるで嘘みてえだ。



「ああ、明日……というより今日、御子神祭か」



日付が変わった時計を見ながら、俺は呟く。


御子神祭での剣舞は、基本二人だ。


メインとサブ。


メインは元老院に認められた家から排出された代表者。

サブはその代表者が直に指名する。


男でも女でもいい。


信頼を得ている者が選ばれる。


櫂は――

俺を選んでくれたんだ。

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