ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――うぎゃあああ、殺す気か!!!?
――煌、手はもっと上へ!!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!!
――よし、仕上げに…目隠しだ。勿論芹霞は、座っていろ。
――嫌あああああ!!!
剣舞って…こんなにドキドキするものなのか?
そんな疑問も湧いたけれど。
神崎姉妹の介助のおかげで…何とか様にはなったはず。
その剣舞は…披露する機会を失われてしまった。
やはり――
夢のまた夢だったか。
櫂と同じ舞台に並んで立つなんて。
明日、あの御階堂は誰かと踊るんだろうか。
祭り自体、開催されるんだろうか。
はっきり言って、そんな気分じゃねえけれど。
「……そういえば」
――明後日……御子神祭では覚悟しろ。
忘れていたけれど、陽斗がそんなことを言っていた気がする。
御子神祭自体は、此の夜が明けたらすぐに始まる。
俺は部屋から出た。
居間はしんと静まり返っている。
陽斗は――
ベランダに出て、夜空を見上げていた。
「……なあ」
俺は、金色頭に向かって声をかけた。
「……寝てねえのか」
手すりに両手を乗せ、身体を凭れるようにして、陽斗は俺を見て言った。
月みてえだと、思った。
こいつの金色は、夜空に浮かぶ月の色。
染まった闇色に輝く色彩。
暁色の、俺の夕闇色を超えた神秘的な色。
こいつ――
なかなかの美形だ。
今までこいつのぎゃはぎゃはで気づきもしなかったけれど。
月色がこいつを妖しく魅せているのか。
それとも――
変えたのは芹霞か。