ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


――うぎゃあああ、殺す気か!!!?

――煌、手はもっと上へ!!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!!


――よし、仕上げに…目隠しだ。勿論芹霞は、座っていろ。

――嫌あああああ!!!


剣舞って…こんなにドキドキするものなのか?


そんな疑問も湧いたけれど。


神崎姉妹の介助のおかげで…何とか様にはなったはず。


その剣舞は…披露する機会を失われてしまった。


やはり――

夢のまた夢だったか。


櫂と同じ舞台に並んで立つなんて。



明日、あの御階堂は誰かと踊るんだろうか。

祭り自体、開催されるんだろうか。


はっきり言って、そんな気分じゃねえけれど。



「……そういえば」


――明後日……御子神祭では覚悟しろ。


忘れていたけれど、陽斗がそんなことを言っていた気がする。


御子神祭自体は、此の夜が明けたらすぐに始まる。


俺は部屋から出た。


居間はしんと静まり返っている。


陽斗は――

ベランダに出て、夜空を見上げていた。



「……なあ」


俺は、金色頭に向かって声をかけた。


「……寝てねえのか」


手すりに両手を乗せ、身体を凭れるようにして、陽斗は俺を見て言った。


月みてえだと、思った。


こいつの金色は、夜空に浮かぶ月の色。


染まった闇色に輝く色彩。


暁色の、俺の夕闇色を超えた神秘的な色。


こいつ――

なかなかの美形だ。


今までこいつのぎゃはぎゃはで気づきもしなかったけれど。


月色がこいつを妖しく魅せているのか。


それとも――

変えたのは芹霞か。



< 501 / 974 >

この作品をシェア

pagetop